明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「んんんんん」
ふさがれた手の下でなんとか声を振り絞ってはみたものの、電車の走行音にかき消されてしまった。
「金出しな」
目的はそれか。
私にだって華族としての矜持は持ち合わせている。
こんな下衆な男たちにひるみたくはない。と気合を入れたものの、腕の太さが二倍ほどある男ふたりにつかまれては、なすすべもない。
「それを調べろ」
口をふさぐ男がもうひとりに、椿の花が艶やかに描かれた私の信玄袋を目で促している。
「んんんんんん!」
羽交い締めにされたせいで父のワイシャツが落ちてしまい、袋もひったくられてしまった。
そのとき……。
「なにしてる」
背後から低い声が耳に届き、男の力が緩んだ。
「まずい。逃げるぞ」
男は走り出そうとしたが、あっという間に腕をつかまれてひねりあげられている。
「いたたたた。離せ」
男をつかまえたのは、詰襟の制服を着てサーベルを腰に下げた警察官だった。