明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
とはいえ、不自由なく生活できる私は、戦争に出征したり大切な人を亡くしたりする人よりは間違いなく恵まれている。
「道具……」
眉根を寄せてフォークを置いてしまった彼は、なぜか悔しそうに唇を噛みしめた。
「八重さんは道具なんかではありません。暴動のあと、恐怖を抱えてまでも私の心配をして警視庁まで来てくださった。こんなにお優しい方が、道具であろうはずがありません」
気遣いの言葉をきっぱりと言い切る黒木さんを前に、視界がにじんでくる。
私のことをこんなふうに言ってくれた人は今までいない。
「ありがとうございます」
彼の言葉はうれしいけれど、私が道具であることは変えようがない現実なのだ。
「由緒正しき公家華族でいらっしゃるなら、私のような成り上がりは相手にもされないのでしょうね」
「えっ?」
どういう意味?