明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
真田家の品格を保つための道具としてしか見てもらえないことをあきらめつつあったのに、彼は道具ではないと言ってくれた。
けれどやはり、私の人生は家のもの。
父の胸三寸で決まるのだ。
「八重、よかったじゃないか。清水家といえば名門中の名門。帝国大学を卒業されているのなら、優秀な方に違いない。私も鼻が高いよ」
兄までもが喜びをあらわにする。
そして母も、満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとう、ございます」
本当はお礼が言いたかったわけではない。
『私には想う方がいます』と何度口をついて出そうになったことか。
しかし、そうする勇気はなく箸を置いた。
「八重。顔色が優れないが、どうかしたのか?」
「い、いえっ」
父の鋭い指摘に、絶望に包まれている私はなんと答えていいのかわからない。
「八重は緊張しているのですよ。そんな素晴らしい方のところに嫁ぐんですもの、当然ですわ」