My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
第四部
1.パケム島
「ぎゃーー!!」
突如、前方から聞こえてきた叫び声に私はぱっと目を開けた。
暖かい日差しとビアンカの優しい乗り心地についうつらうつらしてしまっていたみたいだ。
タチェット村を発ってから5日。
海を突っ切っていればもう目的地であるクレドヴァロール大陸に着いている頃らしいが、いつ休憩出来てもいいようにとなるべく陸地近くを飛んでいるため、結局あと2日ほどはかかりそうとのことだ。
つい先ほども昼食をとるために小さな街に降りたばかり。それもこの眠気の原因のひとつだろう。
(それにしたってビアンカの上で寝ちゃうなんて……それより、)
「どうしたんですか? アルさん」
先ほどの声は彼のものだった。ラグも何事だという顔でこちらを振り返っている。
「お、俺の大切なティコが……」
「ティコ?」
「ティコが全部溶けたーー!」
勢いよくこちらを振り返ったアルさんの手を見てぎょっとする。
瞬間その指にべっとりと血が付いているように見えたのだ。だがよく見るとそれは血の色ではなく黒に近い茶色をしていた。
(チョコ?)
そう、それはどう見てもチョコレートだった。更には風に乗ってよく知るあの甘い香りが鼻孔をくすぐった。
そういえばアルさんが服のポケットから何かを取り出し口に入れる姿は何度か見ている。それがチョコと同じものだとして、この暖かさで溶けてしまったようだ。
と、ラグが呆れかえったように言う。
「くっだらね。そんなことででけぇ声出すな」
「そんなこと!? 俺にとってティコは元気の源だって知ってんだろ! ティコがないと俺は……俺は……泣くからな!」
「勝手に泣いてろアホらしい!」
ふんっとラグは前に向き直ってしまった。
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