My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
――知らずのうちに胸の前で祈るように両手を握りしめていた。
ドクドクという心臓の音で自分が揺れているような錯覚に陥る。
暗殺者がこちらを、ラグを見ている。
(ど、どうするの……?)
今のラグには、術も、武器も、何も無い。
元の姿に戻るにはこれまでの経験上まだ時間が必要なはずだ。
声を掛けようとして、それよりも早く剣を手にしたセリーンがラグの前へ出た。
「ラグ、気をつけろ!」
アルさんの声。
見ると彼はクラヴィスさんの傷を癒しているようだった。
――ルルデュールに変化が起きたのはこの時だった。
「……ラグ?」
小さく呟かれた声。
瞬間誰が発したものなのかわからなかった。
妙な違和感を覚えて視線を戻し、その変化に気付く。
(――え?)
ルルデュールの表情が消えていた。
ついさっきまで笑っていたのに、今はその顔に何の表情も無い。
これまで感情の起伏が激しかったルルデュール。
その感情を全て失くしてしまったかのような虚ろな瞳が、ただこちらをじっと見ていた。
ラグもその変化に気付いたのだろう、訝しげに眉をひそめている。