My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3

「ラグ、だって?」

 もう一度繰り返されたその声にも何の感情も窺えない。

「ねぇ、なんか……」
「あぁ」

 私の掠れた呟きにセリーンが低い声で応えてくれた。彼女の表情も先ほどより険しい。
 皆、彼の変化に気付いている。
 モリスちゃんの泣き声もいつの間にか止んでいて。

「ラグ。――ラグ。ストレッタ。……ラグ」

 異様な静けさの中、ルルデュールの感情の無い声だけが繰り返される。

(ラグのことを知ってる?)

 同じ術士なら、ラグの名は知っていて当然なのかもしれないけれど。

「ラグ。……ストレッタの、ラグ」

 これまでも彼の言動は恐ろしかったけれど、質が違う。

 コワイ……!

「アル!」

 突然、この異様な空気を破るようにラグが声を張り上げた。
 呼ばれたアルさんが驚いたようにこちらを振り向き、そしてすぐに何か悟ったように頷いた。

「てめぇはカノンを護ってろ!」

 続けてセリーンに怒鳴るとラグは彼女の脇をすり抜け、ルルデュールの方へと走り出してしまった。
 止めようと体が動いていた。でもセリーンの腕に阻まれ、彼女の肩越しに彼の小さな背中を目で追うことしか出来ない。

「ラグ。――ストレッタの、」

 そして、その間も続いていたルルデュールの声に感情が戻ったのも、この時だった。

「ラグ・エヴァンス!!」

 怒り。憎しみ。恨み。
 全ての負の感情を爆発させたようなおぞましい声。
 なのになぜかその顔は歓喜に満ちていた。

「キミと遊べるなんて夢みたいだよぉ!!」
< 104 / 150 >

この作品をシェア

pagetop