My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「ラグ、だって?」
もう一度繰り返されたその声にも何の感情も窺えない。
「ねぇ、なんか……」
「あぁ」
私の掠れた呟きにセリーンが低い声で応えてくれた。彼女の表情も先ほどより険しい。
皆、彼の変化に気付いている。
モリスちゃんの泣き声もいつの間にか止んでいて。
「ラグ。――ラグ。ストレッタ。……ラグ」
異様な静けさの中、ルルデュールの感情の無い声だけが繰り返される。
(ラグのことを知ってる?)
同じ術士なら、ラグの名は知っていて当然なのかもしれないけれど。
「ラグ。……ストレッタの、ラグ」
これまでも彼の言動は恐ろしかったけれど、質が違う。
コワイ……!
「アル!」
突然、この異様な空気を破るようにラグが声を張り上げた。
呼ばれたアルさんが驚いたようにこちらを振り向き、そしてすぐに何か悟ったように頷いた。
「てめぇはカノンを護ってろ!」
続けてセリーンに怒鳴るとラグは彼女の脇をすり抜け、ルルデュールの方へと走り出してしまった。
止めようと体が動いていた。でもセリーンの腕に阻まれ、彼女の肩越しに彼の小さな背中を目で追うことしか出来ない。
「ラグ。――ストレッタの、」
そして、その間も続いていたルルデュールの声に感情が戻ったのも、この時だった。
「ラグ・エヴァンス!!」
怒り。憎しみ。恨み。
全ての負の感情を爆発させたようなおぞましい声。
なのになぜかその顔は歓喜に満ちていた。
「キミと遊べるなんて夢みたいだよぉ!!」