My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「ねぇなんで? なんで術を使わないのラグ・エヴァンス!」
だらんと落ちた片腕を押さえながらルルデュールが叫ぶ。
やはり骨折か、脱臼くらいはしているのだろう。
激痛に襲われているだろうに、彼はそれを癒そうともせずに更にラグに向かって叫び続ける。
「術士なら、魔導術士なら魔導術で勝負しようよぉ! あんなおじさんの助けなんか借りないでさぁ!」
「だから、おじさんじゃないって言ってるだろー?」
背後から彼に近づいて行くアルさん。見るとクラヴィスさんはすでに剣を構えツェリの傍らにいた。
ラグ以外のものが見えていないのだろうか。ルルデュールは振り返ることすらしない。
「ねぇ、キミの魔導術を見せてよラグ・エヴァンス!」
ラグは何も答えない。――だが。
「そうだ! どうせならレーネを消したときと同じ術がいいなぁ!」
瞬間、ラグの顔色が変わった。
「黙れっ!!」
彼の口から出たそれは“絶叫”だった。
胸がえぐられるような、酷く悲痛な叫び声。
――レーネ?
「“悪魔の仔”の力をボクに見せてよ!」
「はーい、そこまで」
軽い口調と共に、真後ろまで接近していたアルさんがルルデュールの首に手刀を浴びせた。
それはいつも彼がラグ相手にしている、所謂ツッコミと同じような軽いものに見えた。
けれどその途端ルルデュールの身体は硬直し、力なく崩れ落ちる。
更に、
(あっ)
ラグからふよふよと飛び立ったブゥが、とどめとばかりにルルデュールの顔にスタンプを落とした。
その身体が瞬間びくりと反応し、そして今度こそ小さな暗殺者は完全に昏倒したようだった。
「はは、ブゥお前容赦ねぇな!」
アルさんが笑いながら言うと、ブゥはルルデュールから飛び立ちそのままいつもの定位置であるラグの頭に乗っかった。
そして丁度このとき、ラグの身体は元に戻ったのだった。