My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
モリスちゃんがびくりと身をすくませ、ラグの後ろに隠れる。
「あの術士は……! き、傷が無くなっている?」
混乱しているようだ。負ったはずの傷が消え、目を覚ませば山の中。無理もない……。
とりあえず元気そうでほっとするも、この状況をどう説明したらいいだろう。
ドナ達の一件も未解決のままだ。
「あの術士はもう去った」
一番近くにいたセリーンが短く声を掛けるのが聞こえた。
「そんで、傷を治したのは俺ね。あんたかなり危なかったんだぜ~」
アルさんが手を上げ彼に向け大声で言う。
「ここはアタシ達、ノービス一家の家だ」
そして次にそう続けたのはツリーハウスから降りてきたドナだ。
改めて、彼に事情を説明する気なのだろうか。――だが。
「ノービス! そうか。ここに……ここにノービスがいるのか!?」
ラルガがツリーハウスを見上げ急にこれまでとは違う、妙にはしゃいだような上ずった声を上げた。
そういえば彼は山の中に住むセイレーンのことを知っている様子だった。
驚いた顔のドナ。
「ノービスばあちゃんを、知ってるのか?」
「あ、あぁ」
我に返ったように咳払いひとつしてから彼は続ける。
「昔の……古い友人だ」
(友人?)
ドナから視線を外し言う彼を見て、なぜだが直感で“違う”と思った。
「友人? ばあちゃんの……?」
ドナの声が微かに震えた。
「あぁ。……お前さんは、その、ノービスの娘、いや、孫なのか?」
ドナがゆっくりと首を振る。
「アタシは小さい頃にこの山でばあちゃんに拾われたんだ。ノービス一家はみんな同じようにばあちゃんに拾われた親無しだ」
子供だけの家。――予想できたこととは言え、ドナの口からはっきりと親無しと聞いてちくりと胸が痛んだ。