My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「どこに行くつもりだ」
私たちが静かにドアを開けると、デッキの縁に座っていたラグが頭に乗ったブゥと共にこちらを振り向いた。
その不機嫌そうな顔を見て、やはり家の中の会話はある程度聞こえていたのだとわかる。
「え、えっと、」
さっきのコイバナを思い出し、なんだか気まずい思いで私は口を開く。
「すぐそこの川。そこでカノンに歌ってもらうんだ」
代わりに楽しげな声でさらっと言ったのはドナだ。
するとラグはじろりと私を睨み上げた。そこで気づく。
コイバナどころじゃない。
彼はおそらく銀のセイレーンだということをドナにばらしたことを怒っているのだ。
「お前は、」
眉間にたくさんの皴を寄せたラグが口を開き、私が肩を竦めたそのとき。
「よーうっ! アルディート先生が今戻ったぜぇーい!」
そんな明るい声が空から降ってきた。
「アルさん!」
思わず歓声を上げてしまっていた。
トンと軽い音を立ててアルさんがデッキに舞い降りる。
「どうだった?」
真っ先にそう訊いたのは真剣な顔をしたドナだ。
「あぁ、万事解決!」
彼女の不安を吹き飛ばすような満面の笑みでアルさんはぐっと親指を立てて見せた。
――アルさん曰く。
あの後、まだ人が多く集まっていた詰所前にわざと降り立ち、すぐにその場にいた人達にモンスターは退治したとツェリの角を見せたのだそうだ。
「あのおっちゃん、自警団の団長なんてしてるだけあって街の連中に信用されてんだな。皆あっさりと信じてくれてさ」
アルさんが術士だと知っても、逃げ出すような人は一人もいなかったそうだ。彼の人柄もあってのことだろうが。
詰所の火事騒ぎは、昼間の決闘で負けた傭兵が腹いせに火を放ったということにしたらしい。
そしてそれを助けたのがたまたま島に立ち寄っていた術士のアルさん、というわけだ。