My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「ビアンカお待たせ!」
私が駆け寄ると、彼女は大きな頭を持ち上げ、待っていましたよとばかりにチロチロと舌を出した。
「こ、これに乗って行くのですか?」
ビアンカを初めて見るクラヴィスさんが顔をひきつらせ言った。
「はい! 見た目怖いですけど、とっても優しくて乗り心地も良いんですよ!」
そう笑顔で言うが、やはりクラヴィスさんは不安そうにもう一度ビアンカの頭部を見上げた。
一緒に見送りに来てくれた子供たち4人も、皆ドナの後ろに固まって隠れおっかなびっくりという表情だ。
(仕方ないか。私も慣れるまでは怖かったし)
「しかし、これでは殿下は元に戻らなくてはなりませんね」
クラヴィスさんがまだモンスターの姿のままであるツェリを見下ろした。
確かに、今の姿でビアンカの背に乗るのは難しいだろう。
思わずビアンカに跨った今のツェリを想像し、ちょっと可愛いかもと思ってしまったことは内緒だ。
「そうだな。じゃあ、戻すからな」
ドナが少し緊張した面持ちでツェリに声をかけ、胸元の笛を口に当てた。
ピィーーっと、笛の音が高く響く。そしてみるみる本来の姿へと変化していくツェリウス王子。
角の折れてしまった額に特に異変は見られなくて少しほっとする。
しかし彼はやはり俯いたまま、ドナを見ようとはしなかった。
と、ドナは意を決したように笛を首から外し、そんな王子の前に差し出した。
「これ、今度こそ返すからな。これが無いと何かあったとき困るだろ?」
「…………」
王子は何も言わず、そして笛を受け取りもしない。
「殿下」
クラヴィスさんが促すように優しく声をかけるが、やはり王子は動かない。
と、しびれを切らしたらしいドナが王子の腕を無理やりに取りその手に笛を握らせた。
漸く、王子が驚いた顔で彼女を見る。
その瞳をまっすぐに見つめ、手を握ったままドナは口を開いた。
「ツェリ、色々とありがとな」
ドナは笑顔だった。
「このひと月、お前が居て楽しかったよ。向こうに行っても元気でな!」
すると王子は急に今にも泣きだしそうな顔になって、ドナの細い腕を引き寄せその身体を強く抱き締めた。