My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「くっだらねぇ」
喧騒の中そんな声が聞こえ横を見上げるとその視界がふっと遮られた。ラグが私の目の前を通り群衆を割って進み出したのだ。
私は咄嗟に手を伸ばし彼の服を掴んでいた。彼が驚いた顔でこちらを振り向く。
「詰所に行くんでしょ? 私も一緒に行くから!」
きっと彼は詰所で盗賊の居場所を訊き、今闘っている傭兵など無視してすぐにでも向かうつもりだ。
早く行って、囚われているという男の人が本当にエルネストさんなのかどうか確かめたいのは私も同じだ。ここで置いて行かれるわけにはいかない。
すると彼は小さく舌打ちをして、服を掴んでいる私の手を取った。
「遅れんなよ」
「う、うん!」
手を強く握られ、そんな彼の行動に少し驚くと同時これで置いて行かれずに済むとほっとする。
彼は上手く人波をかき分け詰所の方へと向かう。お蔭ですぐ後ろを行く私はほとんど人にぶつかること無く進むことが出来た。
――この時、てっきり私はセリーンとアルさんもついて来ていると思っていた。
一際大きな歓声が上がり勝負がついたのだと見ないでもわかった。そして丁度同じ時私たちも人垣を抜けることが出来た。
その途端手は離され、彼は詰所へと入って行った。私もすぐに後を追う。
詰所の中は一見小さな食堂のようだった。テーブルとイスが乱雑に置かれ、その壁にはたくさんの貼り紙がしてあった。
その一番奥のテーブルに立派な口髭を生やした強面の男がどっかりと腰を下ろしていた。
詰所と言う割に今はこの人一人だけのようだ。他の人達はやはり外の決闘を見に行っているのだろうか。