My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
アルさんは冗談なのか本気なのかすんすんと鼻を鳴らしながら名残惜しそうにティコの付いた指を口に咥えた。
「なぁ、もしかして、ひょっとして、クレドヴァロールにティコって無いのか?」
「どう考えたって無ぇだろうよ。そうやって溶けちまうんだから」
「……降りる」
「は?」
「俺はここで降りる! そんでティコの代わりになるもんを手に入れる!」
「何アホなこと抜かして――」
ラグが振り返ると同時、目の前で急に立ち上がったアルさんに私はとにかく驚いた。
「わりぃ、少し力借りるぜ。風を此処に……!!」
「え!? だって下って海!」
言い終わらないうちにアルさんはビアンカから飛び降りてしまった。
慌ててその姿を追うと丁度真下に長細い形状の島が見えた。そこに向かってアルさんは落ちて行っているみたいだ。
「あんのアホがぁっ!」
「人のことは言えんだろうが」
背後から聞こえたそんな冷めた声に、なぜか焦るようにこちらを振り返ったラグと瞬間目が合った。でもすぐに彼はバツの悪そうな顔で前に向き直ってしまった。
なんだろうと首を傾げていると、ビアンカがアルさんを追うようにゆっくり下降し始めた。
「ビアンカ、あいつは気にしなくていい。このまま進んでくれ」
「え!? アルさんは?」
「知るか」
「そんな! ビアンカ、このままアルさんを追って!」
私たちの言葉に戸惑うようにビアンカはその島の上空を旋回し始めた。と、
「あれは、パケム島か?」
その妙に上ずった声に後ろを振り向くと、セリーンが興味津々といったふうに島を見下ろしていた。
「パケム料理は絶品と聞くぞ。丁度小腹が空いたところだ。ビアンカ、あのタレメガネを追ってくれ」
「ついさっき食ったばかりじゃねぇかこの大食い女ーー!」
ラグの怒声も虚しく、3対1と判断したらしいビアンカは再び下降を始めたのだった。