My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「は?」
「え?」
アルさんと私の声とが重なる。
爽やかな笑顔で彼は続ける。
「力になれると思います。勿論報酬は要りません」
「なんでそこまで……はっ! ま、まさかお前もセリーンを狙って!?」
アルさんがセリーンにも聞こえる大声で言う。……セリーンは無反応であるが。
クラヴィスさんは静かに首を横に振った。
「確かに彼女は魅力的ですが……。実は私も、その囚われているという男に興味があるのです」
「え?」
小さく声を上げると、彼が私を見た。
「貴方方のお知り合いだと聞きましたが、確かなのですか?」
「あんたには関係ない」
私が答えるより早く、すぐ背後からそんな怒気を含んだ声が上がった。
ラグがクラヴィスさんを睨み見ていた。
「ついて来るな」
「だ、そうだ。諦めろって。んじゃ~な」
「お前もだ、アル」
「へ?」
アルさんの笑顔が固まる。ラグは更にセリーンへも同じように続けた。
「誰がお前らも来いなんて言った。行くのはあの野郎に用のあるオレと、こいつだけだ」
「っ!」
急に腕を強く掴まれ、私は思わず小さく悲鳴を上げていた。
その顔を見上げ息を呑む。――それほどに、彼の表情は険しかった。
(ラグ?)
しかしそう言われて黙っている二人ではない。
「私は何を言われようとついて行くぞ。言ったろう、阻止すると。それに貴様一人でカノンを護れるとは思えんからな」
「お、俺だって行くぞ! 何言ってんだ今更。それにまだあの兄ちゃんだと決まったわけじゃ」
「ついて来るなと言ってるんだ!」
ラグはそう怒鳴るとアルさん達を制止するように手を伸ばした。
「来やがったら、この街ごと消す」
「!?」
その低い声に場の空気がさっと変わった。
私は今耳に入った言葉が信じられず、ただその恐ろしいほどに冷めきった瞳を見上げていた。
「――な、何言ってんだ。お前」
「うるせぇ!」
ラグのその剣幕に流石のアルさんも口を噤む。
セリーンは剣にこそ触れていないものの、敵を見るような酷く警戒した目でラグと私とを見ていた。
これまでにもラグがセリーンやアルさんの言動に我慢できず怒鳴ることなど何度もあった。でもこれは……、こんな顔をした彼は見たことがない。
事情を知らないクラヴィスさんも、その穏やかでない発言に眉をひそめている。
「ついて来るな」
ラグはもう一度冷たく告げると、私の腕をぐいと引いて彼らに背を向けた。
私は、何度も後ろを振り返りながらも彼について行くことしか出来なかった……。