My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
3.オレンジ色の少女
そのまま足早に街を出たラグ。
引っ張られている私はずっと駆け足でなければならず、山道に入った頃には完全に息が上がっていた。額からとめどなく汗が流れ落ちてくる。
強く掴まれている腕は痛みを通り越しすでに痺れ始めていた。
あれから一度も振り返らず、一度も口を開いてくれないラグの背中を私はずっと見つめ続けていた。
――街を消す。彼の口から出た恐ろしい言葉。
彼は昔実際にひとつの街を一瞬で滅ぼしたという。そしてそのことが彼を“悪魔の仔”として有名にした。
でもこの一ヶ月一緒にいて、彼をそんな恐ろしい人だと思ったことは一度も無かった。
確かに怖いと思ったことは何度もある。
(でも、違う)
彼は簡単にそんなことが出来るような人ではない。……そう、思いたかった。
「ラグ」
勇気を出して小さく呼んでみるがやはり返事は無い。これまでも何度か声をかけているのだが、完全に無視されていた。
「ラグってば」
「…………」
「腕、痛いよ!」
流石にキツくなって声を荒げるとピタとその足が止まった。振り返った彼が私を見て、その視線が腕に移動する。そこでやっと気付いたように彼はぱっと手を離してくれた。
「……悪ぃ」
謝ってくれたことに少し驚きつつ私は腕を摩りながら首を横に振る。
だが再び、それでも先ほどよりは速度を落として進み始めた彼に私は言う。
「ねぇ、さっきの……嘘、だよね?」