My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
パケム島は中央を走る山脈を挟んで片側を密林に覆われ、もう片側の海沿いに街が栄えているようだった。
アルさんはあの街に降りたに違いない。
街に程近い山中にビアンカが降り立つと鳥たちが一斉に飛び立っていった。
着地のときはいつも緊張するが、今回もビアンカは木々の間をうまく縫うようにして驚くほど静かに着地してくれた。
むせかえるような緑の匂いとその熱気はフェルクレールトを思い出させた。
しかしセリーンの言う通りジメっとした蒸し暑さは無く、時折頬を撫でる爽やかな風はほんのり海の香りがした。まさに南の島だ。
「じゃあ行ってくるね」
私が言うとビアンカは答えるようにちろちろと舌を覗かせた。
そしていつもは翼を休めすぐに目を閉じてしまう彼女が首をもたげキョロキョロと辺りを見回し始めた。
もしかしたら彼女もここがフェルクに似ていると思ったのかもしれない。
そんなことは気にも留めずにさっさと行ってしまうラグに気付いて、私は足元に注意しながら追いかける。
彼はすでに上着を腰に巻き、丁度お休み中のブゥを髪の結び目に移しているところだった。無事にくっついたのかラグは手を離し額の布をぎゅっと結び直した。
「ビアンカともう少しでお別れって思うとやっぱり寂しいね」
「そうだな」
応えてくれたのは後ろのセリーンだ。
ラグは全身から不機嫌オーラを漂わせていて、余程アルさんに腹を立てているのがわかった。
確かに予定外の寄り道ではあるけれど、私は妙に浮足立っていた。先ほど上空から見えた海沿いの街がとても綺麗だったからだ。
口に出しては言えないけれど、気分はすっかり観光モードだ。