My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3

「皆、アタシだ。入るぞ」

 そう一言声をかけドナはドアを開けた。途端聞こえてきたのはバタバタという足音と子供たちの元気な声だった。

「ドナ姉ちゃんおかえりー!」
「おかえりさぁーい!」

 そのまま勢いつけてドナの腰に抱きついてきたのは二人の男の子だった。
 二人とも7、8歳ほどだろうか。見るからに快活そうなその瞳はすぐに私たちを見つけ、疑問に瞬いた。

「こ、こんにちは」
「だれだ?」
「だぁれ?」

 笑顔で挨拶してみたが、ほぼ同時に二人からそう返され口籠ってしまった。

「カノンっていうんだ」

 ドナが二人の頭を撫でながら言う。

「びっくりするなよ。カノンはな、ばあちゃんと同じセイレーンなんだぞ」
「えーマジで!?」
「すっごーい! 歌って歌ってー!」
「え、えっと」

 この世界でこんなふうにすぐに歓迎されるのは初めてのことで逆に戸惑ってしまう。

「それとアンタの名前は? まだ聞いてなかったよな」

 ドナが私の後ろにいるラグに訊いた、その時だ。

「やあぁ!!」

 そんな高い叫び声が上がり皆の視線が小屋の中に集中した。
 小さな女の子が尻もちをついたような格好で倒れている。

 例の眠れないという子だろうか。その表情は恐怖に怯えていた。その視線の先は、ラグだ。

「やっ、やだぁ、こわい、こわいよぉーー!!」

 ひきつけたように泣き叫ぶ女の子の元へドナは駆け寄りその小さな身体を強く抱きしめた。

「大丈夫。大丈夫だ、モリス。違う、あいつはこの間の奴らじゃない、大丈夫だ!」

 そう言って必死に宥めるドナ。
 ――女の子は自警団が来てから眠れなくなったとドナは言っていた。余程怖い思いをしたのだろうか。男の子二人が加わっても一向に泣き止む様子は無い。
 と、そのとき後ろから小さく舌打ちが聞こえてきた。

「オレは下にいる」
「え?」
「その方がいいだろ」
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