My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3


 目を閉じたモリスちゃんの傍らに寄り添い、彼女の胸を優しくトントンと叩きながら私は歌う。

 ――モリスちゃんは歌っている間絶対に目を開けないと約束してくれた。

 そんな素直で純真な彼女がゆっくりと眠れるよう、今この時だけでも恐怖から解放されるよう、私は心を込めて歌った。

 髪が銀に輝き始める。

 そのことを確認し、私はほっとしながらそのまま子守唄を歌い続けた。

 同じ歌でもフィエールに向けて歌ったときとは全然違う。
 あの時はとにかく必死で“眠って欲しい”と願ったけれど、――今は違う。

 とても穏やかな気持ちだった。
 モリスちゃんのお母さん、いや、彼女たちの“おばあちゃん”になったつもりで歌う。

 その時ふと、自分が幼かった頃のことを思い出した。
 今と同じように胸のあたりを優しく叩きながらこの子守唄を歌ってくれたおばあちゃん。

 じわりと胸があたたかくなる。

(おばあちゃんも、こんな気持ちで歌ってた……?)

 気が付けば、モリスちゃんは小さく寝息を立てていた。

 そのあどけない寝顔に、私は“歌”が成功したのだと安堵する。
 起こしてしまわぬよう、段々と声を小さくしていき、トントンと叩いていた手もゆっくりと離す。
 少しの間何もせず様子を見ていたが、彼女が起きる気配は無かった。どうやら深い眠りに入れたみたいだ。

 髪色が元に戻っていることを確認してから立ち上がり、音を立てないようドアへと向かう。
 ドアを開けた途端、ドナ達3人の真剣な瞳が私に集中した。私は笑顔で頷きモリスちゃんに視線を送る。すると3人は声は出さなかったけれど、全身で喜びを表現した。

 ――いつの間にか、空は綺麗な夕焼け色に染まっていた。

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