My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「――エルネストさん……じゃ、ない」
そう、その人物はエルネストさんではなかった。
全身の力が抜けていく気がした。同時横からも盛大な溜息。
「やっぱりな」
「待ったか?」
そう言って笑顔のドナが私の前に立った。金髪の彼も少し遅れてその横に立つ。
――やはり全然違う。
同じなのは髪の色だけ。その長さも、瞳の色も、歳の頃も、顔立ちも彼とは異なっていた。
目の前にいる彼はエルネストさんよりも大分長い金髪を一つに束ね、その瞳は薄茶色。歳は私やドナよりも下に見えた。
そしてなぜだか彼は酷く不機嫌そうで、こちらと視線を合わせようとはしなかった。そのせいで高貴な雰囲気は確かにあるものの、それよりも“偉そう”という言葉の方がしっくりと来た。
「どうしたんだ?」
私とラグの表情を見て不思議に思ったのか、ドナが首を傾げる。
「人違いだ」
「え?」
ラグの一言にドナがぽかんと口を開けた。そんな彼女にラグはもう一度繰り返す。
「人違いだと言ったんだ。オレ達が捜している奴とは違う」
「……はぁ? ちょ、ちょっと待ってくれよ。こいつ連れて帰ってくれるんじゃないのか!?」
焦ったように私たちを交互に見回すドナ。
(連れて帰る?)
どういう意味だろうと疑問に思っていると。
「だから、違うって言っただろうドナ」
口を開いたのはドナの隣にいる金髪の彼。――やはり声もエルネストさんとは全く違う。
改めて人違いであったことにショックを受けていると、そんな私たちには目もくれず彼は突然ドナの肩を掴んだ。
驚くドナを自分の方に向かせ彼は言う。
「それに、僕は帰らないって何度言ったらわかってくれるんだ。僕はずっと此処に居る。ドナのそばに居たいんだよ!」
ドナの顔が朱に染まっていくのを見ながら、なんだか私まで顔が熱くなるのを感じた。
「――こ、こっぱずかしいこと言うな!」
「ドナが僕の気持ちを全然理解してくれないからだろう! 僕はドナを守りたいだけなのに」
「だ、だからアタシは……」
痴話喧嘩にしか見えない二人のやり取りを前にしてお邪魔だろうかと思い始めたころ、そんな私の視線に気づいたらしいドナは更に顔を赤くして彼の腕を勢いよく振り解いた。
「悪い! てっきりアタシこいつを連れ戻しに来たのかと思って」
「う、ううん。こっちこそ折角連れて来てもらったのに……」
言いながら私はちらりと金髪の彼を見上げた。だがやはり彼はドナだけを見つめている。
(あれ……?)
その時、私は彼とエルネストさんとの共通点を髪色の他にもうひとつ見つけた。
長い前髪に隠れてはいるが、彼の額にもエルネストさんと同じような紋様が描かれていたのだ。