My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
そうだ。今まで早く帰りたいとばかり考えていたけれど、そうなったらセリーンやラグとは二度と会えなくなるのだ。
気が付けばこのレヴールに来てからそろそろ一ヶ月が経とうとしている。
元の世界へ戻るということは、この一ヶ月ほとんどずっと一緒にいるこの二人と別れるということ。――たった一ヶ月だけれど、これまでの人生でこんなに濃密な一ヶ月は無かった。
彼女に何か返そうと口を開いた時だ。急にセリーンが鋭く茂みの中を睨んだ。
ぎくりとして振り返るとラグも足を止め、いつでもナイフを抜けるよう腰に手を当てていた。
「なに? も、もしかして」
「あぁ」
そして聞こえてきたのは、グルルルという低い唸り声だった。
威嚇するように牙をむき出しにし肩を怒らせのっそりと茂みから姿を現したのは、ヒョウやジャガーに似たいかにも獰猛そうな金の毛並みのモンスターだった。
(きっと赤ちゃんの頃は可愛いかったんだろうけど……)
猫を思わせる長い尻尾を見ながら一瞬そんなことを思ったが、残念ながらどう見ても立派な成獣だ。
そしてヒョウやジャガーとはっきりと違っていたのは、眉間に突き出たまるでユニコーンのような一本の角。
ラグとセリーン、二人の強さを知っていても恐怖を感じるに十分なモンスターだった。
――そんな状況でだ。硬直していた私の肩を優しく叩き前に出たセリーンが、ラグに向かってとんでもないことを口にした。
「貴様一人でなんとかしろ」
「え!?」
「術を使えばすぐに済むだろう」
あ。そういうことかと私はすぐに理解した。
セリーンはラグに術を使わせ、小さな彼に会いたいのだ。