My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「そういやあん時なんでカノンちゃんだけ小屋の中にいたんだ? ラグは入れなかったのか?」
「あっ、そうだ!」
私は前を行くトム君に声をかける。
「トム君、モリスちゃん眠れたんだよ!」
「え!?」
トム君はすぐさまこちらを振り返った。
――そうだ。もっと早くに彼にこのことを伝えるべきだった。
「私ね、実はトム君達のおばあちゃんと同じセイレーンなの」
トム君の双眸が大きく見開かれる。
「ドナに頼まれて子守唄を歌ってあげたらモリスちゃんぐっすり寝てくれたよ。今はアドリー君とリビィ君と、それにツェリがそばに居るから安心してね」
笑顔で続けるとトム君は放心したように視線を落とした。
「……モリスが、眠れた?」
「うん!」
「そっか、モリスが……」
その声が小さく震えた気がした。と、そのときだ。
「良かったじゃねぇか!」
アルさんの大きな声にトム君も私もびくりと肩を跳ねさせた。
「お前妹に眠って欲しかったんだろ!? これで安心して謝りに行けるな!」
満面の笑みで言われトム君は少し戸惑いながらもうんと頷いた。
「あ、でもそのことなんですが……」
私はラグから聞いた自警団の話を手早くアルさんとトム君に話した。
「だから、トム君が謝りに行くのは危険だと思うんです」
俯き自分の服の裾を強く握りしめるトム君。
「でも、俺……」
「大丈夫だって! 俺がついてってやるって言ってんだろ?」
アルさんのその底抜けに明るい声にトム君は顔を上げた。
「それに言ったろ。悪いことをしたから謝りに行くんだ。真剣に謝れ! そうすりゃ絶対大丈夫だ!」
びしっと親指を立ててアルさんは続ける。
「だからその前に早くドナ姉ちゃんに追いつかねぇとな!」
「うん!」
トム君は力強く頷き、そして慣れた足取りで再び進み始めた。
私も先行くセリーン達との間が大分開いてしまったことに気付き足を速める。
(アルさんて、凄い人だなぁ……)
彼の言葉を聞いていたら不思議と本当に大丈夫という気がしてきた。――でも。
「しっかしラグの奴、ホント羨ましいよなぁ~」
背後でぼそりと呟かれた言葉に私は危うくまた足を滑らせそうになってしまった。