My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
夜の街は昼間とはまた違った賑わいを見せていた。
道行く人はさすがに減ったものの、そこかしこにある食堂からほのかにお酒の匂いの混じった食欲をそそる香りと楽しげな笑い声が漏れていた。
そこで自分が空腹なことに気付いたが、今はそんなこと言っていられない。
(早く、ドナ達を見つけなきゃ)
頬を伝ってきた汗を拭って私は自警団の詰所のある方を見据えた。
ドナ達がトム君を探して向かうとしたらやはりあの詰所が一番可能性が高い。彼女達があの場所を知っていたらの話だが――。と、
「いい加減に放せ!」
まだ小さなラグの怒鳴り声が前を行くセリーンの方から聞こえてきた。
「もうすぐ戻るからな! いいのか!?」
「なに!? では今のうちに思う存分堪能しておかなくては……!」
そして更に強く抱きしめられてしまったらしいラグの呻き声に苦笑しつつ私はトム君の方を振り向いた。
「トム君、ドナは詰所の場所知ってるの?」
「うん。ドナ姉ちゃん前は良く畑で採れたもんここに売りに来てたから、多分知ってるはずだよ」
アルさんの隣を歩くトム君はやはり緊張した面持ちで、でもしっかりと答えてくれた。
――ツリーハウスの前にあった小さな畑。あの畑にはそんな意味があったのだ。
子供たちだけで生きるということはきっと私が想像するよりもずっとずっと大変なことなはず。
そんな皆をまるでお母さんのように支えているドナ。
昼間初めて会ったときの敵意むき出しの彼女を思い出して、私はいよいよ心配になった。
(ドナ、無事でいてよ……!)
あの金髪の彼も一緒なのだ。きっといきなり詰所に乗り込むような早まった真似はしていないだろうと思いたかった。
「この辺だったよな?」
アルさんが自信無さげに言う。
「はい、多分……」
私も曖昧に答える。
仕方ない。昼と夜では雰囲気が違う上、昼間はあの決闘騒ぎでこの辺り一帯人で溢れていたのだ。
だがその場所を私たちは最悪なかたちで知ることになる。
「だから、早くトムを出せって言ってんだ!!」
そんな聞き覚えのある怒鳴り声がすぐそこの建物から響いてきたのだ。