My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「ドナ姉ちゃん!」
「おいトム!」
いち早く駆けだしたトム君の後をアルさんが追い、私もそれに続く。――今の声はドナのものに間違いない。
「だからなんのことだ。ここには儂以外誰も――」
その低い声はトム君が勢い良くドアを開け放ったところで途切れた。
中にいたのは二人。奥のテーブルに昼間もそこに居た口髭の中年男と、こちらを振り返り瞳を大きくしているドナ。
(あれ、金髪の彼は……?)
「トム!」
私が視線を彷徨わせているとドナがこちらに駆け寄ってきた。そしてトム君を強く抱き締める。
「良かった、無事だったんだな!」
「ごめん。ドナ姉ちゃん」
小さな声で謝るトム君にドナは首を振った。
「無事ならいいんだ。でも、なんでカノンが? こいつは?」
トム君の前にしゃがみ込んだまま私たちを不思議そうに見上げるドナ。答えようと口を開きかけたが、
「なんなんだ一体」
その苛ついた声に皆の視線が一斉に奥のテーブルに集まった。
「いきなり怒鳴り込んで来たと思えば。まったく、間違いだとわかったならさっさと帰ってくれないか。煩くてかなわん」
どうやらドナ達が件の賊だとはまだ気付いていないよう。この人は討伐隊には参加しなかったのだろうか。
(なら、やっぱりこのまま一度戻った方が……)
そう思ったときだ。男の鋭い視線が私に留まりギクリとする。
「ん? お前さんは確か昼間の……。一緒にいたあの男はどうした?」
焦って後ろを振り向き、だがそこでラグとセリーンがこの場にいないことに気付く。
(そっか、まだ体戻ってないから――)
「それで、賊の元へは行けたのか? それとも結局怖気づいてのこのこ戻って来たのか?」
「え、えっと」
質問攻めにされ、どう答えるべきか頭をフル回転して考えているときだ。
「ごめんなさい! 俺がお菓子を盗みました!」
トム君の大声が詰所内に響いた。