My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
見るといつの間にかトム君はドナに背を向けまっすぐに口髭の男を見据えていた。
「トム!?」
ドナが悲鳴に近い声を上げトム君の腕を掴む。だがもう遅い。男の刺すような視線はしっかりとトム君を捉えていた。
トム君はその視線から逃げることなく続ける。
「全部俺が一人でやったんです。他の皆は何も悪くないんです。俺、許してもらえるまでなんでもします。罰もちゃんと受けます! だから、もう家に来ないでください! お願いします!!」
ドナの手が力なくトム君から離れた。
もう引き返せない。そう思ったのだろうか。彼女はすっと立ち上がるとトム君の隣に並んだ。
「罰を受けるのはアタシの方だ」
「ドナ姉ちゃん!?」
驚きドナを見上げるトム君。そんな彼にドナは優しく微笑みかけた。
「ごめんな、トム。ありがとう」
そしてドナは口髭の男に視線を戻した。
「今回のことは、一家の長としてトムのしていることに気付けなかったこのアタシに責任がある。だから捕まえるならアタシにしてくれ。トムや他の子供たちは見逃して欲しい」
(ドナ……)
彼女のその凛とした立ち姿を私はただ後ろから見ていることしか出来なかった。
口髭の男は先ほどから顔の前で手を組み睨むような目つきでドナを凝視している。
――助けになればと思いここに来たけれど、出来ることが見つからない。
このままではどちらかが、最悪二人とも捕まってしまう。確かに盗みは悪いことだけれど、でも――。
「っくー! いい話じゃねぇか!!」
不意に上がった場違いな大声にびっくりして傍らを見上げる。アルさんだ。
こちらを振り向いたドナ達もまた私と同じく酷く驚いた表情。
「庇い合う姉弟! やー俺は感動したね!! トムも良く言えたな、カッコ良かったぞ!」