My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
皆が呆気にとられるように見守る中、アルさんは一人笑顔で口髭の男に話しかける。
「なぁオヤジ、二人ともこんなに反省してんだしさ。ここは広~い心で許してやってくれよ!」
「……お前さんは何だ。この二人の仲間か?」
男が訝しげな目でアルさんに訊ねた。そういえばこの二人は初対面だ。
「いやいや、俺はこっちの子の仲間。この子と一緒にいた愛想の無い男いたろ? あれの兄みたいなもんだ」
アルさんが私の肩を軽く叩き言う。
「兄? ならお前さんも術士なのか?」
「術士?」
その言葉に小さく反応したのはドナだ。
そこで気づく。ドナは私がセイレーンだと知ってはいるが、ラグが術士だということは知らないのだ。
「あぁ。まぁな」
アルさんが答えると男は組んでいた手を外し更に強い口調で訊いた。
「なら、その弟はどうしたんだ? モンスターの始末を依頼したんだがな」
「あぁ、あいつなら多分外に――」
「始末って……、どういうことだ。カノン」
アルさんの言葉の途中でドナが私に訊いた。その表情に疑惑の色が見え私は焦る。
――そうだ。彼女にとってみたら、私と自警団の男が初対面でない時点で疑念を持ってもおかしくない。
「あ、あのねドナ、ラグは確かにそう依頼されたみたいなんだけど、それよりも金髪の彼と話がしたくて、それで」
「なんだよ、やっぱり最初からアタシ達を捕まえるのが目的だったんじゃないか!」
その今にも泣き出しそうな表情と声に、私は言葉を失ってしまった。
「セイレーンだって、ばあちゃんと同じだって、アタシ嬉しかったのに……」
「なんだなんだどうした、二人とも」
事情を知らないアルさんが私たちの間に入ろうとしてくれたが、そんな彼をドナは睨み上げ、そしてはっと何かに気付いたふうに再び私に視線を移した。
「そうだ、なんでここにアイツがいないんだ? 術士って、まさかモリス達を……っ!」
「ドナ姉ちゃん!?」
青い顔をしたドナがトム君の腕を掴み詰め所を飛び出して行くのを、私はただ目で追うことしかできなかった。