My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
(私、何やってんの……?)
何か力になれればと追い掛けて来たつもりが、逆に彼女を不安にさせてしまった。彼女の気持ちを裏切るかたちになってしまった。
あんなに強気だった彼女が私に向けた今にも崩れてしまいそうな顔が脳裏に焼き付いたまま離れない。
「カノンちゃん、大丈夫か?」
アルさんのその気遣わしげな声に我に返り顔を上げる。
「ごめんな。なんか俺マズイこと言っちまったかな」
「違うんです。私が」
「あの娘、今セイレーンと言ったか?」
その声にはっとして見ると口髭の男がいつの間にか席から立ち上がっていた。
男の鋭い瞳が食い入るように私を見ていて、しまったと思う。
この距離では男にもドナの声は聞こえていたはず。もし銀のセイレーンの話がこの男の耳にも入っていたら――。
「お前さん、山に住むセイレーンを知っているのか?」
(――え?)
てっきり銀のセイレーンの話だと思ったが、違うようだ。それに私も「同じ」だということも気付いていないよう。
山に住むセイレーン、というとドナのおばあちゃんのことだろうか。
先ほどまでいまいち感情の読めなかった男が明らかに動揺している。
しかしドナ達にあんなに想われているおばあちゃんのことを話せるわけがない。
私は首を横に振り、男をまっすぐに見返した。――先ほどのドナ達のように。
「知りません。それより、さっきの子たちはどうなるんですか? やっぱり罰せられるんですか?」
思い切って訊く。すると、男はまだ疑っているのだろう、眉を寄せこちらをじっと見ながらももう一度椅子に腰かけた。
「儂が決めることではない。賊の討伐に躍起になっているのはうちの若い連中だ」
「貴方から言って、止められないんですか? 皆、本当に家族思いのいい子達なんです! 全然、盗賊なんかじゃなくて、お菓子もさっきの子の妹が食べたいって言ったから、それで」
「子供らへの処罰は止められたとしてもだ」
私の声を遮るようにして男が強く言う。
「モンスターの始末は絶対だ。島の者も皆不安がっている」