My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
そういえばアルさんが旅に加わってからラグはまだ一度も術を使っていない。
ビアンカが降りる場所は人目の付かない森の中などが多いためこれまでも何度かモンスターに遭遇しているが、セリーンが危惧していた通りアルさんがすぐに術で片づけてしまうのだ。
ラグの表情はここからではわからないが、舌打ちだけはしっかりと聞こえてきた。
彼が体勢を低くしながらゆっくりとナイフの柄を掴んだのを見て、今度はセリーンが小さく舌打ちをする。ラグは術を使う気は無いようだ。
彼と金色のモンスターとの距離はざっと3メートル。セリーンのような長剣ならともかく、刃の短いナイフで太刀打ちできる相手だろうか。もしあの角で刺されてしまったら……そう思ったらぞっとした。
「だ、大丈夫かな」
「傷を負っても奴には癒しの術があるからな。どちらにしろ、カノン」
「え?」
「歌うなよ」
笑顔で、でもすこぶる低い声で言われて、私はこくこくと頷くことしかできなかった。
その時だ。鋭い咆哮が上がり視線を戻すと今まさにモンスターがラグにその鋭い両爪を向け飛びかかろうとしていた。
思わず声を上げそうになるが、ラグは横に跳んでそれを避け、標的を失ったモンスターは音も無く着地しすぐにまたラグに向かって牙を剥き飛びかかっていく。
ラグはそれも寸前で避けつつ今度はナイフを振りかざしモンスターの腹に斬りつけた――ように見えたが、モンスターもまた身体を上手くひねって刃を避け優雅に着地した。
再び距離をとって対峙する両者を息をするのも忘れて見守っていると、セリーンが呟くように言った。
「術を使わんと死ぬぞあの男」
「!?」
「なかなか強敵のようだからな」
見ると確かにラグの顔には焦りが浮かんでいた。