My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「見たとこ、そのツェリってモンスターや子供たちを捕まえにきたってわけでも無さそーだしよ」
クラヴィスさんは答えない。
なぜ、すぐに答えられないのだろう。悪い人では無いと思いたいけれど……。
ツリーハウスから離れたこの位置からではその表情がよく見えなかった。
「あの金髪の兄ちゃんは人違いだったって、お前さん言ってたよな?」
「え?」
それにいち早く反応したのはドナだった。
ドナはツェリから手を離すとクラヴィスさんを見つめながらゆっくりと立ち上がった。
そして私は思い出す。
そういえばあの金髪の彼はどこだろう。
ドナを追い掛けていく姿を最後に、彼を見ていない。
(まさか、山の中で迷子になんてなってないよね……?)
気にはなったが、ドナが不安そうに胸にかかった笛を握っているのを見て、私は口を噤む。
クラヴィスさんの正体がわからないうちは、彼のことを口に出さない方がいい気がした。
やはり無言のままのクラヴィスさんに、アルさんは短く息を吐く。
「セリーンが言うにはよ、お前さんまず傭兵っての嘘だろ」
「え!?」
思わず声が出てしまっていた。
「剣を合わせててわかったってよ。そんじょそこらの傭兵の剣じゃない、正規の訓練を受けた者の剣だってな」
――正規の訓練?
アルさんが低く続ける。
「お前さん、どっかの軍人……や、騎士だろ」
私は目を見開く。
(クラヴィスさんが、騎士……?)
だがそう言われると、確かに彼は“傭兵”と言うより“騎士”と言われた方が納得できる雰囲気を持っている。
彼には今まで見てきた傭兵たちには無い、気品が感じられた。
「それも結構な階級と見たね。――そのお偉いさんが、身分を偽ってまで捜してるくらいだ。その金髪の男ってのは一体どんなお方なんだろうな?」
探るような言い方。
それに答えたのはクラヴィスさんではなかった。
「もしかして、お前、なのか?」
ドナだ。
彼女はクラヴィスさんに向けて震える声で訊いた。
「お前、ツェリを連れ戻しに来たのか?」