My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
一瞬、聞き間違えかと思った。
けれど、アルさんもきょとんとした顔でドナを見ていて、それが聞き間違えでないとわかった。
(今、ツェリを連れ戻しに来たって、言ったんだよね?)
ツェリは先ほどから変わらずずっと心配そうにドナを見上げているけれど。
と、そのとき長い長い溜息が聞こえてきた。クラヴィスさんだ。
彼はゆっくりとした足取りで暗闇から出てくると、神妙な顔つきではっきりと言った。
「もう終わりにしましょう、殿下」
――でんか?
(電化……製品は、まだこの世界には無いはずだし……)
その単語が頭でちゃんと漢字に変換されるまでに少しの間を要した。
“殿下”――それは高貴な身分の人に使う呼び名だ。
クラヴィスさんの視線の先にいるのはツェリ。……に見えるけれど。
ツェリはようやくドナから視線を外し、ゆっくりとクラヴィスさんの方を見た。
しかしさもつまらなそうにふいとそっぽを向いてしまった。
「殿下! お戯れもいい加減になさってください。皆貴方様の帰りを待っているのですよ!?」
「――ちょ、ちょっと待ってくれ」
声を荒げるクラヴィスさんにアルさんが遠慮がちに声をかける。
「なんつーか、さ。……さっぱり意味がわからねーんだけど」
アルさんが、私の気持ちを見事代弁してくれた。