My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「ラグ、術使って!」
「うるせぇ!!」
その罵声と共に彼は動き、モンスターもまた彼に向って跳んだ。――そのときだった。
ピィーという高く澄んだ音がどこからともなく聞こえてきて、その途端モンスターは身を翻しラグから離れた場所へ着地した。そしてくるりと背を向け元来た茂みの中へあっという間に消えて行ってしまった。
「なんでだ!」
一番に叫んだのはセリーンだ。
ラグも少しの間モンスターの消えて行った茂みの向こうを睨んでいたが、短く息を吐くとナイフを腰に戻した。
敵意むき出しだったモンスターがなんでああもあっさり立ち去ってしまったのか疑問は残ったが、私にはそれ以上に気になることがあった。
「今の音って、笛?」
「ふえ?」
緑の天井を見上げながら言うとラグが額の汗を拭いながら不機嫌そうに訊いてきた。
「うん、笛っていう楽器……なんだけど」
言いながら私は気がついた。
歌が不吉とされるこの世界。だからこの世界の人たちは音楽自体嗜まないのだと勝手に思い込んでいたが、楽器が無いとは限らないのだ。
でもラグはやはり楽器と聞いてもピンとこないのか、ただ眉を寄せるだけだった。
「なんにしろ、野生のモンスターってわけじゃなさそうだな」
「うん、あの音が何かの合図だったんだよね、きっと」
「……面倒なことにならねぇうちにさっさと街に行くぞ」
ラグは警戒するように辺りを見回しすぐに歩きだした。
折角のチャンスがモンスターと共に消えてなくなり完全に目が据わっているセリーンにこっそり苦笑して、私も小走りでラグの後を追った。