My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
8.主従
ツェリウス殿下――そう呼ばれた金髪の彼は、やはり機嫌悪そうにそっぽを向いている。
そんな彼を片膝をついたまま見上げ、クラヴィスさんは続けた。
「さぁ、私と共に国へ戻りましょう」
「僕は戻らない。決めたんだ。一生ここにいるって」
「皆、貴方様の帰りを待っています」
「……あいつらが待っているのは、僕じゃない」
低い声で答える彼。
表情はわからなかったが、その拳は強く握られていた。しかし、
「デュックス様も、とても心配しておられます」
その言葉に彼の肩がびくりと強張った。
「――そうか」
唐突にアルさんが声を上げた。
「ツェリウス殿下、そんでデュックス……」
二つの名を酷く驚いた様子で繰り返すアルさん。そして。
「クレドヴァロールの二人の王子だ」
(――王子、様!?)
驚き過ぎで声が出なかった。
ツェリが金髪の彼だったことにも驚いたのに、その上彼が王子様!?
この世界で金髪の人は希少な存在で、その大抵が高貴な人だとラグから聞いて知ってはいたけれど……。
「はい。このお方は我がクレドヴァロール王国の第一王子であらせられる、ツェリウス殿下です」
私たちの反応に気付いたクラヴィスさんが微笑を浮かべ誇らしげに教えてくれた。
――改めて私は金髪の彼、ツェリウス王子を見る。
今はドナ達と同じ質素な服を着ているけれど、正装した姿はきっと絵本に登場するような、まさに“王子様”だろう。
その少し偉そうな態度も、王子様だと言うならわかる気がした。
なぜ彼はここにいるのだろう。
ドナは、彼が王子様だと知っているのだろうか……。と、
「はい。これ、もう返すな」
ドナが落ち着いた声で言った。