My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
見ると彼女は首に掛かっていた笛を彼の前に差し出していた。
返すということは、笛は元はツェリウス王子のものだったということだろうか。
だが彼はそれをドナの方へと押しやった。
「これは、ドナにあげたものだ」
「でも、お前にとって大事なもんなんだろ」
「だから! ……だから、ドナに持っていて欲しいんだよ」
泣きそうな声で言って、しかし彼はそこでくるりとドナに背を向けた。
そして、ツェリウス王子は初めてクラヴィスさんをまっすぐに見据えた。
「僕は帰らない。ここで一生ドナ達を守ると決めたんだ」
「そういうわけには参りません。先ほども申しましたが、皆、貴方様の帰りを待っているのです」
子供を諭すような優しい口調で、クラヴィスさんは応える。だが。
「――っ、待っているのは僕じゃない! 僕のこの髪だろう!?」
王子は自分の長い金髪を鷲掴みにして怒鳴る。
「こんな髪が、あるから……」
続けて悔しげに呟いた王子は、先程ドナが落としたナイフを手に取った。
その行動を不思議そうに見つめるドナ。
完全に蚊帳の外な私やアルさんもそんな彼をただ見ていることしかできなかった。
「殿下、何を……!」
唯一慌てて立ち上がり駆け出そうとしたのはクラヴィスさん。だがやはり間に合わなかった。
王子はドナの目の前で束ねた金髪の根元にナイフを入れ、ためらう様子無くざっくりと切り取ってしまった。