My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
クラヴィスさんは絶句したようにその場に立ちつくす。
ツェリウス王子はそんな彼に金髪の束を差し出し言った。
「これを城に持って帰って。僕は……ツェリウスは死んだって伝えてくれよ」
「――お、お前何してんだよ!」
青い顔をしたドナが彼の手からナイフを奪い取る。
だが王子はクラヴィスさんを強く見据えたまま続けた。
「僕が死んだとわかれば喜ぶ者が大勢いるだろ。ほら、持って行けよ」
手に持っていた自分の髪の束を王子はぞんざいに放り投げた。我に返った様子でそれを受け取るクラヴィスさん。
――どういうことだろう。
王子様が亡くなるということは普通国にとって一大事のはず。
(喜ぶ人が大勢いるだなんて)
でももしそれが本当なら、ツェリウス王子が帰りたくないと言う気持ちもわかるけれど……。
手の中の金髪の束を見下ろすクラヴィスさん。その表情はここからではわからない。
そんな彼を見てツェリウス王子はふっと唇の端を上げた。
「そんなものに振り回されて、バカみたいだよな」
口元は笑っているのに、その声は泣いた後のように掠れていて。
それを誤魔化すかの様に王子は強気な口調で続けた。
「でもこれでデュックスが王になれば国も安泰だ。クラヴィス、お前ももう僕に振り回されずに済むぞ。良かったな」
……気になることだらけだったが、ドナでさえ口を出せないこの状況で完全な部外者である私が入っていけるわけがなかった。――そう思った矢先。
「なるほどなー。王位継承のいざこざってとこか」
あっけらかんと言ったのはアルさんだ。私はびっくりしてそんな彼を見る。
「そーいやクレドヴァロールの王サマの容体が芳しくないって聞いたよーな気がしたな」
「そ、そうなんですか?」
お蔭で私もやっと声を出すことが出来たけれど。
――ラグと一緒にいるとその愛想の無さでよくハラハラさせられるが、その先輩であるアルさんも別の意味でハラハラしてしまう。