My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「あぁ、そうさ」
そう答えたのは意外にもツェリウス王子だった。
「でも僕は王位なんて継ぎたくない。だからこうして身を引いたってのに」
王子はクラヴィスさんを横目で見ながら嘲るような笑みを浮かべた。
「一応“第一王子”なんて言われてるけどさ、僕は国にとって忌むべき存在なんだ」
(忌むべき存在……?)
アルさんも怪訝そうに眉を寄せた。
「殿下!」
クラヴィスさんが制止に入るが、王子はそのまま私たちに向けて続けた。
「僕は国王が正妃を娶る前に踊り子と作った子なのさ」
ドナが驚いたように王子を見上げた。
「なのに、その僕に王の証であるこの金の髪が受け継がれてしまった。それに、この呪いもね」
呪い。
そこだけぴんと来た。おそらくは先ほどのモンスターの姿が、彼の呪われた姿。
「母さんは必死に僕を隠していたけど、結局見つかってしまった。無理やりに引き離されて、僕は第一王子に仕立て上げられた。……古い考えに囚われてる者がいるせいでホントいい迷惑だよね」
軽い調子の言葉の中にも怒りが満ちていて――。
「それで王が病気になったら案の定城の中は真っ二つさ。もー煩くてしょうがなくってさ、だから僕は城を抜け出した。このときばかりはこの呪いが役に立ったよ。このことを知っているのは極限られた者だけだからね」
そして王子はもう一度クラヴィスさんに向かい強い口調で言った。
「折角こうして自由になれたんだ。僕は絶対に帰らない」
――誰も、何も言えなかった。
一番近くにいるドナもショックを隠しきれない様子でただ王子を見つめている。――彼女はどこまで知っていたのだろう。
しばらくの沈黙の後。
「そこまで、お嫌なのですか」
手の中の髪を見つめたままクラヴィスさんが感情を押し殺したような低い声で言った。