My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
アルさんは人混みから少し外れた場所に転がっていた水桶を手にした。しかしその中にもう水は入っていない。無駄だとわかって放って置かれたもののようだ。
「よし、まだ残ってるな」
だが彼はそう呟くと、空のはずのその桶の中に手を突っ込んだ。
「カノンちゃん、そのまま俺の後ろにいてね」
「は、はい」
「わりぃ、少し力借りるぜ」
(――術!?)
「水を此処に……!」
途端、空だったはずの桶から大量の水が噴きだした。
続けざまボールを投げるような仕草でアルさんが詰め所の方向を指し示す。
「あの炎を抑えてくれ!」
その声に応えるように水は龍のごとく人々の頭上を弧を描き飛んで行った。
突然降ってきた大量の水に、わぁーっと群衆から歓声と驚きの入り混じった声が上がる。
「やった!」
見る見るその勢いを弱めていく炎に私も小さく歓声を上げていた。
だが、そんな私たちに向けられたいくつもの視線に気が付く。その中にはあの雑貨屋の主人もいて。
まずい! そう思いアルさんを見上げたその時だ。
「カノンちゃん、行くぜ!」
「!?」
私は彼にひょいと抱き上げられ、
「風を此処に……!」
再び上空へと翔んだ。