My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
彼もまた空を飛んでいた。
その向かう先には王子やドナ達のいる山が聳え立つ。
「まさか、山を燃やすつもりじゃ……!」
「ちっ」
舌打ちが聞こえると同時、頬に当たる風が急に強まった。ラグが速度を上げたのだ。
ぐんぐん相手との距離が縮まっていく。
と、向こうもこちらに気付いたようだ。空中で身体をひねりこちらに顔を向ける。
その手には赤黒く光る木片が握られていた。
「あれぇ。なんだ、生きてたのかぁ。さっすがストレッタの術士」
「どこにいくつもりだ」
風の中ラグが強い口調で訊く。すると少年、ルルデュールは小首を傾げた。
「どこって、そこの山だけど」
手元の灯りで、彼が笑っているのがわかる。
「やっぱり全部燃やしちゃおうと思うんだ。その方がラクだしさ」
その酷くあっけらかんとした言い方に鳥肌が立った。
「だめ!」
思わず叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。
そんなことをしたら、ドナ達皆が……!
だが、スっと少年の口元から笑みが消えギクリとする。
「なんで? 別にキミ達には関係ないでしょ」
「それが、関係なくはないんだな」
その声はいつの間にか私たちに並んでいたアルさんのものだった。その腕に抱えられたラルガさんはまだぐったりと目を閉じている。
「なぁにそれ」
再び笑みを浮かばせるルルデュール。
「おじさんだって同じ術士ならわかるでしょ。これ、ボクのお仕事なんだけど」
「あぁ、同じ術士だもんな。だからお兄さんは、お前さんのそのお仕事を阻止させてもらうぜ」
“お兄さん”を強調して、きっぱりと言うアルさん。
「なんで」
「それが俺のお仕事なんでね」
私ははっとしてアルさんを見る。
それは、王子の護衛を引受けたということだろうか。