My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
その方、というのはおそらく今もそこで気絶しているラルガさんだろうけれど――。
「クラヴィスさん!」
私は思わず声を上げていた。どう考えても剣で敵う相手ではない!
「クラヴィス戻れ!」
アルさんもそんなクラヴィスさんに気付いて叫ぶ。
だが彼は止まらない。
自分にまっすぐ向かってくる相手を見てルルデュールがぴたと笑うのを止めた。
「ただの人間が、ボクに寄るな」
唸るような低い声。
剣が届く距離までその間が縮まったそのとき、ルルデュールが叫んだ。
「風の刃を此処に!」
途端再び突風がクラヴィスさんを襲いその身体が押し戻されるようにして吹き飛んだ。しかしそれだけではなかった。
「ぐああぁぁぁ――っっ!!」
絶叫が辺りに響く。
風が竜巻のようにクラヴィスさんの身体を包んでいた。
その中で彼の身体が見えない無数の刃によって斬られていく。――おそらくはラルガさんを襲った術と同じものだ。
「クラヴィスさん!」
「風を此処に!!」
私が悲鳴を上げるのと同時、アルさんが焦るように叫んだ。
ゴォッと音を立てアルさんの起こした風が竜巻にぶつかっていく。
竜巻はその風にかく乱されるようにして、ついには霧散した。
クラヴィスさんの身体が力なくその場に崩れ落ちる。すぐさまアルさんがそこへ向かった。
「あーあ、まぁた邪魔されちゃった。折角あともう少しで死ぬとこだったのに」
その、さも残念そうな言い方にぞっとする。
(この子は……ううん、この人は本当に、人の命を何とも思っていない……)