拝啓ヒトラーさん




祭りの後の余韻。
私がぼんやりとしている間に終わった体育祭では、総合優勝チームが嬉しそうに水風船を投げ合っている。
カラフルな色の玉が飛び交う光景。
はじける水飛沫。
優勝チームは水風船で遊べるという、うちの学校の謎の伝統は何なのだろう。

はしゃぎ回る生徒の塊を遠目に見ながら私はそう思った。
ぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうのようにもつれ合い、ビショビショになっている。
その中心には弟がいた。
嬉しそうに笑っている。
素直さが滲み出ている笑顔。
周りの女の子がちょっとでも意識して欲しくて広に触っているのが見える。
広は「全然、全く、ちっとも気にしてないです」って顔をして笑ってる。

後ろから足音。
BPM124。楓ちゃんだろう。
体を後ろに向ける。
思った通り、楓ちゃんだった。

「春、向こうで先生達のカラオケ大会始まるって!」

「それ、誰が得するの」

「先生たちの自己満足でしょー」

でも面白そうだし見に行こうよ!と楓ちゃんが誘ってくれた。
たしかに、いつまでも優勝チームを見つめているのも虚しい。

先生たちの歌に特に特に興味も湧かなかったが、いつまでもグラウンドにいるのも暑いので楓ちゃんについて歩いていく。

「大須賀先生、なに歌ってくれるかな〜」

「相変わらず好きなんだね」

「だって大須賀先生かっこよくない!?」


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