拝啓ヒトラーさん
「次、応援合戦でしょ?広くん出るよね」
「そうらしいね」
「知ってるくせに」
興味ないフリしちゃってさ、とおかしそうに楓ちゃんは笑う。
彼女の手が私の肩に回る。
暑い、と文句を言いながら私はその手をのける。
楓ちゃんは気を悪くした様子もなく私に話しかける。
「広くんに頼まれたんだよ。春と一緒に見ててくれって」
「いつ?」
「ついさっき。本当に今。春はどっかでサボるつもりだろうからって」
嫌な弟だ。
付き合いが長いと私の行動も予測されてしまうし、自らの顔の広さを利用して私の小さな悪さを阻止しようとしてくる。
楓ちゃんは私の手を握り観戦席に引き戻そうとする。
「行きたくないんだって。さっきの借り物競争、見たでしょ?」
「見てた見てた。速かったね、春と広くん」
「本当にもうイヤ。なんであの子あんなに目立つんだろう」
「春だって十分目立ってるよ」
楓ちゃんはおかしそうに笑う。
陸上部なのに彼女の腕を引く力は強い。
私はあっという間に観客席に連れて行かれてしまった。