拝啓ヒトラーさん


「うちの学校で有名な前川姉弟」
高校ではみんながそう口にする。
前川春と前川広。
広は私の弟だ。
しかし弟といっても血は繋がっていない。
私が6歳の頃、両親が早逝した。
引き取ってくれる親戚もいなかった私の、里親となってくれた前川家。

校庭の中心でみんなの視線を一身に浴びる広。
その笑顔が眩しい。

弟を見ていると、時々消えたくなる。
私はどこに居ればいいのかわからなくなる。
そして、私にいたはずの本当の弟は今どこにいるのだろうかと考える。
里親の前川夫婦も、病院の先生も教えてくれなかった。
ただ、「春には血の繋がった弟がいたけど、もう会えない」と言うだけ。

本当の両親の死と、本当の弟との別離。
弟がどうして私の前から消えたのか。
調べようとしたけど、前川夫婦も病院の先生もこれだけは絶対に許さないという態度だったので諦めた。

夏の日差しが私と楓ちゃんを照りつける。
暑いなぁ、と思った。

< 7 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop