拝啓ヒトラーさん



「これは、その、本当ですか?」

「信じられないでしょうが、本当です」

「いわゆる、天才児というやつですよね?」

「そうです。ギフテッド・チャイルドとも呼ばれます。特に興味深いのがIQテストです」

IQの結果で天才かどうか判断するのは早計だという見方もあります。
しかし1つの指標にはなるでしょう。
人口の7割の人がIQ85~115内に収まり、125以上であればギフテッドと判断されます。
世界最高のIQの持ち主は263~349の間と言われていますが、そもそも彼らほどの知能を測定できる問題は今のところ作れていません。
測定できても上限は250、いや200あたりでしょうか。

「春さんも測定不能レベルの高IQの持ち主です」

先生が早口でそう言い切った。
私はなんとも居心地悪く、膝の上のクマのぬいぐるみをモジモジいじっていた。
前川夫婦は顔を見合わせるばかり。

「今までの記録を見るに、家庭環境の問題から天才児とは気づかれなかったようです。しかし持っているものはかなり特異ですよ」

「えっと、つまり?」

「高IQ、カメラアイ、完全記憶が確認できました」

こうあいきゅう、かめらあい、と前川夫婦はなんだかわからない様子。

「簡単に言えば、見たものの細部まで完璧に、写真のように忘れずに覚えていられます。また彼女は耳で聞いたことすらも一字一句完璧に覚えています。今までに起こった出来事も全て、彼女は覚えていられるのです」

今の彼女は解離性健忘により自ら記憶を封印してしまっていますが、と先生は残念そうに言った。
それでも、出来事は覚えていなくても知識は覚えているようです。
現にテストではかなりの知識を見せてくれました。
どこで覚えたのか、漢検準一級レベルならスラスラ読めて単語理解もできていますよ。
英単語も偏っていますが2000語は覚えているようです。
深夜放送の洋画や海外ドラマで覚えたのでしょうか。
とにかく、吸収力が素晴らしい。


< 9 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop