西校舎の佐倉くん
その日の夜。

鍋屋先生同行の条件で肝試しが何故か許可され、私達は校舎に入った。



10月前半。

秋風が少し冷たく頬を撫で、昼間とはまるで違う静けさが私達の恐怖心を煽る。


先頭に鍋屋先生、その後ろの私にしがみついて、高野さんと、仲のいい清水さん、三宅さんが続く。


実は私も、このメンバーだけじゃ心細くて、数少ない友人である茅野皐月を誘ったのだけど、

ホラーだけは本当に無理!と速攻で断られてしまった。



──私だって、別に得意なわけじゃないのに。




「西校舎、入るぞ」



鍋屋先生のいつもより少し低い声は、わざとなのかそう聞こえるだけなのか。

何となく誰も声を出さずに、とりあえず頷く。



西校舎は、さっきよりも風が冷たい気がして。


後ろの3人は気味悪がっているけど、私はどこか心地よかった。

別に今体温が高いわけでも、暑がりなわけでも、寒いのが好きなわけでもない。
だけどなぜか、そのやけにひんやりした風が、心地良くて。




しばらく歩いていると、鍋屋先生が立ち止まった。



「ここが図書室だ」



微かに香る本の匂い。
先生の持っているランタンの光だけを頼りに、ゆっくり中へ向かう。


散乱した本。壁にかけられたカレンダーは2年前の8月で止まっている。

机に触れると、埃が溜まっていた。



「・・・あれ、これ・・・」



1冊だけ、一番奥の机に丁寧に置かれている本があった。



「『星が降る夜』・・・」



本を開こうとした瞬間。
どこからともなく聞こえた、ピアノの音。



「え・・・?」



先生にくっついて離れない高野さんたちは、まるで聞こえていないかのように平然としている。

埃っぽい本棚を眺めながら、”雰囲気あるね”と話しているのだ。



「ねえ鍋屋先生・・・西校舎の男の子って、ピアノが上手だったんですよね」


「おう。・・・あれ、薙原お前、何持ってんだ?」


「・・・この本、彼に返してきます」


「は?何言って・・・って、おい!」



私は思わず、走り出していた。
西校舎なんて初めてだから、ピアノがどこから聞こえるのか、いま自分がどこにいるのか、全くわからない。


しかも夜で、明かりもないこの暗さ。
だけど自然と、私の足は迷うことなく走り続けた。


まるでピアノの音に引っ張られるかのように。

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