西校舎の佐倉くん
「第一音楽室・・・」
部屋の前に立つ頃には、ピアノの音は止んでいた。
上がる息を整えるほど、私の気持ちに余裕はない。
ここまで走ってきたけど、入って大丈夫なのか・・・。
この扉を開けたら最後、もう二度と戻れないなんてことは──。
「・・・でも、返さなきゃ。」
『星が降る夜』。
もう一度その本を見ると、何度も何度も読み返された跡があった。
少しボロっとして、黄ばんだ表紙。
すると、本の隙間から一枚の紙が滑り落ちてきた。
「貸出記録票・・・」
本を借りるときに、名前を書いておくやつだ。
そこには、同じ名前がずらっと並んでいた。
「佐倉樹・・・」
不自然に、1冊だけ置かれていた本に書かれた、男の子の名前。
・・・西校舎の幽霊は、この人なのかな。
思い切って、私は扉を開いた。