西校舎の佐倉くん
ガラッ──


「・・・男の子・・・」


入るやいなや、窓から入る風にはためくカーテンと、そこにもたれて外を見つめ、髪をサワサワと揺らす男の子の姿が目に入った。


月明かりに照らされ、少し茶色い髪と細身の身体。
その横顔は、思わず見惚れてしまう美しさだった。

星が似合う、彦星のような。



「──僕が怖くないの?」


「え・・・?」


「・・・君も肝試しに来たんでしょ?入ってくるのが見えた。
今までも何人かこうして来たことがあるんだ。

・・・みんな、僕のピアノの音で逃げ帰ったけどね」



決してこちらを向かない彼は、寂しそうに息を吐いた。



「僕は君たちとは違うんだよ。」


「幽・・・霊・・・?」


「・・・頷いたら、君も逃げてしまう?」



ゆっくり向けられた顔は、悲しそうに笑っていた。

綺麗な顔立ち・・・月光で幻想的に見えるからなのか、纏うオーラが違って見えた。



「佐倉・・・佐倉樹くん、ですか?」


「・・・どうして僕の名前を?」


「この本・・・」




距離は保ったまま、本だけ前に出してみる。
彼は未だ不思議そうに首を傾げたまま。



「これだけ、綺麗に図書室の机に置かれてて。不自然だなと思って。

あの、私の担任の先生から、西校舎のことは聞いてて。
もしかしたらその男の子の霊がよく読んでるのかなって。

それで、ピアノの音が聞こえて・・・。
名前は、貸出記録票に書いてあったので」


「そっか。・・・僕は佐倉樹。君は?」


「薙原です。薙原実咲」


「薙原さん、ありがとう。

その本は、僕が生きていた頃からお気に入りなんだ」



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