西校舎の佐倉くん
「お気に入り?」
「そう。・・・その本は、僕が大好きな本。
その本を読んでいると、この世界じゃない、どこか別の世界へ連れて行ってくれるような気がした」
「別の世界・・・行きたかったんですか?」
「・・・早く戻った方がいい。みんなきっとビックリしてるよ、君がいなくなって」
「あっ、そっか私・・・急に走ってきちゃったから」
「嬉しかったよ、久々に人と話せて。
本もありがとう。だけどそれは図書室に戻しておいて。僕のモノってわけじゃないし。」
「でもあの図書室はもう使われてないし、持ってた方が楽なんじゃ・・・」
「いいんだ、その本を見るために図書室に行くのも僕の楽しみの1つだから。」
「・・・わかりました。じゃあ、元の机の上に置いておきますね」
「ありがとう」
優しい微笑みを浮かべた彼は、私に手を振った。
私も少し振り返して、Uターンする。
「・・・あの、」
「?」
「また、来てもいいですか」
「・・・え?」
3歩歩いて、もう一度振り返った私が言った言葉に驚いて、佐倉くんは目をぱちくりさせた。
「幽霊が怖くないわけじゃないし、ここに来るまでの道も薄暗くて、怖い。
でも、風が・・・」
「風?」
「風が、心地良くて。それに、貴方も悪い霊じゃないと思うから。
・・・また、話したい。この本の内容も、聞きたいです。
・・・だめ、ですか?」
「・・・ありがとう。待ってるよ。」
この人は、よく笑う優しい人だ。
私は一礼して、足早に図書室へと戻った。