月夜に笑った悪魔
「昨日、ヒールで足踏んだし、今朝の私の態度は悪かったかな、って思って……。いや、でも、暁が私にしたことのほうがもっと悪いけど……」
謝りたかったのはこのことなんだけど、どうしても余計な言葉まで付け足してしまう。
まだ、ムカついているし完全に許せたわけじゃないから。
「謝る気ねぇじゃん」
私の言葉を聞いた彼は、ふっと笑う。
「…………」
「急に謝ってどうした?……あぁ、謝らないと俺に嫌われるとでも思った?」
言い当てられる。
なんて鋭いんだ、この男は。
「…………」
「俺のこと世界で1番嫌いとか言っておきながら、嫌われること気にしてんだ?」
何も返せないでいれば、それは肯定と捉えられて。
彼の口角が上がるのがわかる。
嬉しそう、というか……からかう気満々の顔。
「……お、美味しいご飯と私の穏やかな生活のためだよ。嫌われて追い出されたら、私はホームレスになるもん」
頷いておけばいいものを。
私は、気にしていたことをつい口にしてしまう。
何を言われるかと思えば、暁は笑いながら体を起こして。
「正直でよろしい」
私の頭の上に手を乗せて、わしゃわしゃと少し乱暴に撫でた。
そのせいで、私の髪はぼさぼさに。