月夜に笑った悪魔


「急に強気だな?」
「わ、悪い?」


「悪くねぇよ」



急に、しゃがみ込んでいる私に近づいてくる整った顔。
瞬きをしたあとには、頬に触れた柔らかい感触。




触れたのは一瞬で、すぐに離れていく。

──頬にキスされた、というのは数秒後にわかった。





「なにして……!?」
「かわいーなって思って」


「な!?」


か、かわいい!?
まさか、この男の口からそんな言葉が出るなんて。


棒読み感すごかったし、どうせ適当に言っただけだろうけど……!


適当に言ったとわかっていても、ドキドキしてしまう。
柔らかい感触を確かに覚えていて、触れられたところが熱い。



「いろいろ悪かったって。昨日のお詫びにこれ買ってきたから、許せよ」


彼は今のキスがなにごともなかったかのように立ち上がり、机の上に置いてあったものをとる。


彼が手にしたのは、長い箱と、縦長の袋。
それを持ってくると、私に2つとも差し出した。



じっと見てみると、長い箱はドーナツ屋さんのもので、縦長の袋にはタピオカミルクティーらしきものが入っていた。

< 106 / 615 >

この作品をシェア

pagetop