月夜に笑った悪魔
「急に強気だな?」
「わ、悪い?」
「悪くねぇよ」
急に、しゃがみ込んでいる私に近づいてくる整った顔。
瞬きをしたあとには、頬に触れた柔らかい感触。
触れたのは一瞬で、すぐに離れていく。
──頬にキスされた、というのは数秒後にわかった。
「なにして……!?」
「かわいーなって思って」
「な!?」
か、かわいい!?
まさか、この男の口からそんな言葉が出るなんて。
棒読み感すごかったし、どうせ適当に言っただけだろうけど……!
適当に言ったとわかっていても、ドキドキしてしまう。
柔らかい感触を確かに覚えていて、触れられたところが熱い。
「いろいろ悪かったって。昨日のお詫びにこれ買ってきたから、許せよ」
彼は今のキスがなにごともなかったかのように立ち上がり、机の上に置いてあったものをとる。
彼が手にしたのは、長い箱と、縦長の袋。
それを持ってくると、私に2つとも差し出した。
じっと見てみると、長い箱はドーナツ屋さんのもので、縦長の袋にはタピオカミルクティーらしきものが入っていた。