月夜に笑った悪魔


声のしたほう、前へと目を向ければそこにいたのは……スーツをしっかり着た、紫髪の若い男性。




「あぁ、きみが暁の……」


その男性は私を見ると、小さくつぶやく。


……きっとこの人は、一条組の人、だろう。
誰にも会わないと思ったのに、会うなんて。


泣いたせいで絶対ひどい顔してるからあんまり見られたくないけど、挨拶くらいは軽くしておいたほうがいいのかな……。
ここで無視したら感じ悪いよね。




暗いから、顔はそんなによく見えないと思いたい……。


「こ、こんばんは……。はじめまして、日南美鈴です」


ぺこりと頭を下げる。
そうすれば、男性は優しく微笑んで。



「俺は一条組の若頭補佐と、“夜桜(よざくら)”の副総長をしてる、桐生 蒼真(きりゅう そうま)。よろしく」


私へと近づいて、目の前で立ちどまると差し出された手。
……握手、だろうか。


っていうか、なんだ……。
“夜桜”?副総長?


若頭補佐、というのは暁の補佐……だよね。
よくわからないけど、この人も一条組の中で偉い人なんだろう。

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