月夜に笑った悪魔
怒りを含んだその声に、動けなくなった。
蒼真は「もう来ちゃったか」とつぶやいたあと、私から体を離す。
「……なにしてんだよ」
再び耳に届く低い声、この声は……暁の声。
声のしたほうへと目を向けると、不機嫌そうな表情をした彼がそこにいた。
スウェットを着ている暁の髪から、ぽたぽたと垂れる雫。
濡れた髪に、肩にかけているタオル。
きっとお風呂上がりなんだろう。
「悪かったって、そんなに怒るなよ暁。
この子が誰にでもなびく女じゃないかとか、一条組の金目当てじゃないか、心配だったから試させてもらっただけだって。
試した結果、美鈴ちゃんはおもしろそうな子でよかったよ」
蒼真は両手を上げて暁にそう返すと、私に目を向けて「嫌なことしてごめんね」と謝罪。
おもしろそうな子?
さっきのは……試されてた?
確かに、この家に急に知らない女が住むことになればいろいろ疑問に思ったり、不審に思うのも無理もないかもだけど……。
「俺の女だから、もう触んな」
暁は足を進めてこっちに来ると、私の腕を引っ張って。
強く引いて、この場を去る。