月夜に笑った悪魔


「……早く帰れよ。帰るとこあるんだろ」


まっすぐに目を見つめられる。


そう言われて、思い出してくる。
せっかく、一瞬でも楽になれたのに。


「もう!お兄さん聞いてよ!
私、彼氏と一緒に住んでるんだけどね、さっき彼氏が他の女の子とキスしてホテル行くとこ見ちゃったの!今日は彼氏と付き合って3年記念日だったのに、ほんとに最悪!」


思考回路が鈍くなって、辛いことを叫ぶように話した。
お兄さんは見ず知らずの人なのに。


「住むところもなくなって、また1人になっちゃった……。ひとりぼっちは嫌なのに……」


涙が溢れ、頬を伝う。


こんなことを見ず知らずの人に言うのは、頭がふわふわしてるせい。


「私なりに和正にもっと好きになってもらえるように努力したつもりなの……。なにがいけなかったの……」


そう言った時だ。
ぽつり、ぽつり、としずくが頭と手におちたのは。


上を見上げれば、今度は頬にしずくがおちてきて。
空からしずくが次々におちてくる。


……雨だ。

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