月夜に笑った悪魔
「私はもう寝る!」
これ以上一緒にいると心臓が壊れそうで、そう返したが。
「一緒に寝る?」
今度は、そう返される。
「えっ」
「なんもしねぇよ」
一緒に……寝る?
なにもしない、って……。
もう……ついさっき、キスはされましたが。
不思議とキスされたのがいやってわけじゃないけども……。
「寝られねぇんだったら一緒に寝よ」
誘うように目を見つめられ……。
1人でいるとまた和正のことを考えそうだった私は、こくんと頷いてしまった。
男性の『なにもしないから』というのはだいたい信じてはいけない。
今までの経験からそれはわかっていたんだけど──本当に、なにもされないとは。
暁が髪を乾かし終わったあと、彼の部屋に布団を運んで。
布団を隣に並べて、小指だけつないで電気を消した。
布団も別々で、これ以上近づいてくることもない。
……やっぱり、意外と優しい、かも。
傘に入れてくれて私が濡れないように気をつかってくれたり、歩くスピードも合わせてくれたり、胸貸してくれたり……。
急にキスされたのはびっくりしたけど……。
暁を好きになれば、幸せになれる気がする。
……好きになりたい。
ちゃんと向き合いたい。
でも、向き合うためには……やっぱりいつまでも和正のことは引きずってたらだめだ。
このままでいても、和正も私もずっと前に進めない。
絶対会わないつもりだったけど……最後に、ちゃんとお別れしよう。
そう心に決めて、私は目を閉じた。